権力分有による和平合意における一般市民の包摂に関する研究
欧州との社会科学分野における国際共同研究プログラム
(ORAプログラム)
概要
本プログラムは世界で2件しか採択されない大型の多国間国際共同研究プログラムで、欧州等4か国の主要な学術振興機関と連携、本研究には7か国20名以上の研究者が参加します。日本側研究代表を国際学術院教授上杉勇司が勤め、本学の複数の学術院(政治経済学術院・社会科学総合学術院)に属する研究者が参加します。
研究達成目標
本研究では、和平交渉と一般市民の意向の関係に光を当て、エリート間の権力分有の合意が、平和の実現や持続性、さらには民主化の促進に及ぼす影響を明らかにすることを目標とします。
トップダウン型の和平交渉や内戦終結過程の研究の成果を踏まえつつ、ボトムアップ型の平和構築の視点を取り入れ、以下の5班に分かれて研究命題を検証します。
1. どのような条件下で権力分有が紛争解決の有効な手段として受け入れられるのか。どのような条件下で権力分有に関する合意は、合意履行段階における修正や改革を受け入れやすくなるのか。
2. 権力分有を通じた和平の実現に対して一般市民が賛同や拒否の判断をするうえで、どのような要素が影響を及ぼしているのか。
3. エリートが権力分有に関する合意を採択したり修正したりするうえで一般市民の意向は、どのくらい影響を及ぼしているのか。その過程に影響力を行使するうえで、一般市民は、どのような能力をもつのか。
4. 政党やコミュニティ指導者は、彼らの構成員に対して権力分有による解決を認めさせるために、どのように説得しているのか。どのような交換条件、介入、仲裁のスタイルを用いると、説得が成功するのか。
5. 住民投票は、権力分有の適応性と持続性に、どのような影響を及ぼすのか。住民投票の結果は、権力分有を通じた紛争解決の履行に、どのような影響を及ぼすのか。
国際的な共同研究として実施される本研究では、日本側では、若手研究者を共同研究者として位置づけることで、彼らが国際共同研究の経験値を積む機会を提供します。
さらに、紛争地を経験した多民族国家において、現地の研究協力者と共同でデータの収集をすることで、ミンダナオ(フィリピン)、ボスニア・ヘルツェゴビナ、キプロス、レバノン、北アイルランド、南アフリカ、ニューカレドニア(仏領)の研究者とのネットワークを形成する機会にもなります。本研究を通じて収集したデータは、データベース化し、研究終了後に他の研究者に向けて公開します。
公開前に、本研究に従事する日本側若手研究者に対しては、優先的にデータを使用した個人または共同研究を促し、国際的に評価の高いジャーナルへの論文投稿の機会を設けます。共同研究の集大成として、英語による研究書の出版を計画しており、日本側若手研究者は、単著もしくは共著者として、この国際的な研究発表の場を得ることができます。
研究計画
3年間を実施期間とする本研究では、1年目と2年目をデータ収集・分析、3年目を成果報告に当てます。成果として、冷戦後に締結された民族紛争の和平合意のうちで、権力分有が交渉・合意されたデーターベースが構築されます。和平の交渉過程から履行過程、さらには、その後の平和構築の過程を辿り、権力分有の形が、各段階において、どのように変化を遂げたのかを示すデータを収集します。
すべての民族紛争のデータを集めるのではなく、7事例に焦点を当て、比較分析を試みます。7事例は、下表の通り、各事例の発展段階ごとに3種類に分類されます。研究成果をもとに実務家向け研修を実施し、成果の一般への還元・普及としてYouTube動画も制作します。
平和が定着した事例
・南アフリカ
・北アイルランド
不安定な平和の事例
・ボスニア・ヘルツェゴビナ
・レバノン
今後の権力分有が期待される事例
・キプロス
・ミンダナオ
・ニューカレドニア